宵闇御用心
夜、シュウは人が少ない通りを、家から一番近いコンビニ目指して歩いていた。
あ、この人もそうだろうか。
目の前の角から一人の男が歩いて出てきた。
しばらく男はシュウの前を歩く、もうすぐコンビニだ。
しかし男はこちらを向き、首を傾げながら引き返してくる。
足がスラリと伸びていて、背が少し高めでスーツ姿。
シュウはその整った顔のこともあり、男がホストだとすぐにわかった。
男は夜の暗闇に溶けてしまいそうな、白黒で統一されたシンプルな格好をしていた。
まるで吸血鬼のような雰囲気………。
髪も黒のまま、ほんの少し伸ばされているが、きちんと整理された髪型だった。
「あの、すみません」
男に話しかけられ、一瞬別の人に話してるのかと思った。
だが自分しかいないのだから自分に話しかけているのだろう、シュウは歩みを止めた。
はい
なんですか
どうしました
シュウがなんと返そうか思考していたら、男はすぐに続けた。
「道を聞きたいんですが、この辺りに住んでらっしゃる方ですか?」
「はい、そ、そうです」
男のよどみなく紡ぎ出された言葉にどぎまぎしながら答える。
シュウだけに限らず、人は自分より明らかに優れている人には思わず構えてしまうものだ。
「この辺りに○○公園ってありますか?」
「あぁ、ありますね小さくてわかりにくいですが」
シュウはその公園がある場所を頭に思い描く。
説明しづらいな、案内した方が早いな。
「説明しづらい場所なので案内します。すぐですから」
「あ、ありがとうございます。助かります」
男はにっこりと笑い、長めの八重歯が口から覗いた。
男としばらく歩く。
コンビニの前で男が止まる。
「あ、お礼に何かおごらせてください」
「いいですよ、これくらい」
「いや、僕もちょうどなにか飲もうかな、と思っていたところで」
「そうですか」
シュウは男のやや充血した赤い瞳に押され、コンビニに入ることにした。
自分だってもともとここに来るつもりだったのだし。
男はジュースの売り場に歩いて行き、トマトジュースを手に。
「さて、あなたは?」
シュウは、最初から決めていた缶コーヒーを男に渡した。
店の外に出て○○公園の方へ向けて歩く。
「今日、そこで人と待ち合わせなんですよね」
「そうですか」
曖昧な返事をして、シュウは女だな、と決め付けていた。
「『○○公園で待ち合わせ』と言われたのですが、まったくわからなくて………」
「そうですか………」
公園につき、男はベンチの前で辺りを見渡す。
「かなり遅れたからなぁ、もう行っちゃったのかな」
「そうかも知れませんね」
男は外灯の下で見ると、白い肌をしていた。
自分より白いな。
肌が結構白かったシュウだったが、男の肌は雪のように白かった。
「せっかくの食事だったのに」
男は呟いた。
「どこへ食べに行くつもりでした?そこで待ってるのかも」
「え!?いや、すいません独り言です」
「あぁそうですか、では用があるのでこれで………」
「あなたでもいい」
「へ?」
自分が何を言われたのかいまいち理解できなかった。
あぁ一緒に食事をするなら自分でもいいという意味か。
しかし相手に悪いだろう。
満月が綺麗ですね。
男が呟き、シュウは空を仰ぐ。
本当だ、綺麗だな。
顔を戻した時、男が近くに迫っていた。
手を伸ばせば、いつでも触れられる距離。
「ではこれで………」
悪い予感がしたシュウは、その場から去ろうとする。
腕をつかまれる。
「っ!」
シュウは声を上げそうになった。
なんだろう、この人は危ない。
逃げなくては。
シュウが体をよじると、首にかかっていて、先端をシャツの中に入れていたネックレスが外に出た。
瞬間、男の表情が変わる。
「残念です。あなたのような美しい女性をいただくことができなくて………」
男はシュウの腕を離して、心から残念そうに言って、その場から去っていく。
男はすぐに闇に溶ける。
シュウは安心してその場に立ちつくす。
女の自分があのまま男にやられていたらどうなっていたか、考えただけでぞっとする。
シュウはコンビニへナプキンを買いに行っていたのだが、男の前では買えなかった。
これから買いに行こう。
シュウは先端に十字架がぶら下がったネックレスをシャツにしまうと、歩き出した。
あ、この人もそうだろうか。
目の前の角から一人の男が歩いて出てきた。
しばらく男はシュウの前を歩く、もうすぐコンビニだ。
しかし男はこちらを向き、首を傾げながら引き返してくる。
足がスラリと伸びていて、背が少し高めでスーツ姿。
シュウはその整った顔のこともあり、男がホストだとすぐにわかった。
男は夜の暗闇に溶けてしまいそうな、白黒で統一されたシンプルな格好をしていた。
まるで吸血鬼のような雰囲気………。
髪も黒のまま、ほんの少し伸ばされているが、きちんと整理された髪型だった。
「あの、すみません」
男に話しかけられ、一瞬別の人に話してるのかと思った。
だが自分しかいないのだから自分に話しかけているのだろう、シュウは歩みを止めた。
はい
なんですか
どうしました
シュウがなんと返そうか思考していたら、男はすぐに続けた。
「道を聞きたいんですが、この辺りに住んでらっしゃる方ですか?」
「はい、そ、そうです」
男のよどみなく紡ぎ出された言葉にどぎまぎしながら答える。
シュウだけに限らず、人は自分より明らかに優れている人には思わず構えてしまうものだ。
「この辺りに○○公園ってありますか?」
「あぁ、ありますね小さくてわかりにくいですが」
シュウはその公園がある場所を頭に思い描く。
説明しづらいな、案内した方が早いな。
「説明しづらい場所なので案内します。すぐですから」
「あ、ありがとうございます。助かります」
男はにっこりと笑い、長めの八重歯が口から覗いた。
男としばらく歩く。
コンビニの前で男が止まる。
「あ、お礼に何かおごらせてください」
「いいですよ、これくらい」
「いや、僕もちょうどなにか飲もうかな、と思っていたところで」
「そうですか」
シュウは男のやや充血した赤い瞳に押され、コンビニに入ることにした。
自分だってもともとここに来るつもりだったのだし。
男はジュースの売り場に歩いて行き、トマトジュースを手に。
「さて、あなたは?」
シュウは、最初から決めていた缶コーヒーを男に渡した。
店の外に出て○○公園の方へ向けて歩く。
「今日、そこで人と待ち合わせなんですよね」
「そうですか」
曖昧な返事をして、シュウは女だな、と決め付けていた。
「『○○公園で待ち合わせ』と言われたのですが、まったくわからなくて………」
「そうですか………」
公園につき、男はベンチの前で辺りを見渡す。
「かなり遅れたからなぁ、もう行っちゃったのかな」
「そうかも知れませんね」
男は外灯の下で見ると、白い肌をしていた。
自分より白いな。
肌が結構白かったシュウだったが、男の肌は雪のように白かった。
「せっかくの食事だったのに」
男は呟いた。
「どこへ食べに行くつもりでした?そこで待ってるのかも」
「え!?いや、すいません独り言です」
「あぁそうですか、では用があるのでこれで………」
「あなたでもいい」
「へ?」
自分が何を言われたのかいまいち理解できなかった。
あぁ一緒に食事をするなら自分でもいいという意味か。
しかし相手に悪いだろう。
満月が綺麗ですね。
男が呟き、シュウは空を仰ぐ。
本当だ、綺麗だな。
顔を戻した時、男が近くに迫っていた。
手を伸ばせば、いつでも触れられる距離。
「ではこれで………」
悪い予感がしたシュウは、その場から去ろうとする。
腕をつかまれる。
「っ!」
シュウは声を上げそうになった。
なんだろう、この人は危ない。
逃げなくては。
シュウが体をよじると、首にかかっていて、先端をシャツの中に入れていたネックレスが外に出た。
瞬間、男の表情が変わる。
「残念です。あなたのような美しい女性をいただくことができなくて………」
男はシュウの腕を離して、心から残念そうに言って、その場から去っていく。
男はすぐに闇に溶ける。
シュウは安心してその場に立ちつくす。
女の自分があのまま男にやられていたらどうなっていたか、考えただけでぞっとする。
シュウはコンビニへナプキンを買いに行っていたのだが、男の前では買えなかった。
これから買いに行こう。
シュウは先端に十字架がぶら下がったネックレスをシャツにしまうと、歩き出した。