死にたくなったら遺書

今、僕は死にたい。
中学生3年生、秋晴れの下で絶望している。
目の前にひたすら受験が待っていて、全くと言っていいほど勉強していない。
そして何だか友達に彼女が出来たのか、最近全然遊んでない。
家族と喋るときも、頑張れとかばっかり。
僕は、何だかひどく疲れた。
この世界から抜け出すために、僕は死ぬ。
自殺。
手首を切ろうか、首をくくろうか、電車に飛び込もうか、ビルから落ちようか。
いやいや、自殺をするのなら、まずは遺書を書かなくては。
帰宅し、自室の勉強机に向かってペンを走らす。
表に『遺言状』と太いペンで書いておいた新品のノートに。
まずは死にたい理由などから書くのだろうか?
死にたい理由など、考えればいっぱいある。
お金がない、絶望。
クラスで喋る人がいない、絶望。
彼女がいない、絶望。
後は……もうない。
これだけ?
探してみると意外に少ない……。
まだあるはずだ―――!
帰宅して、部屋のベッドに寝転びながら考えてみる。
まだまだ……あるはず……あるはずなんだけど。
とりあえず、理由なんかはどうでもいい。
再び机に向かう。
次は、これから生きていく人に向けてメッセージを。
何かむかついていて言えなかったこととか、恥ずかしいことをどんど書く。
でも1ページも埋まらなかった。
2、3行続けて書いて、それでおしまい。
う~ん、頭を悩ませていると、背後のドアが開く。
親からは、机に向かう僕の背中しか見えない。
「勉強……してるね」
親だ。
「んだよ」
「感心感心、頑張りなさいね」
ドアが閉められる。
まるで死ぬことを頑張れと言われたみたいだ。
僕はまだまだ書き続ける。

夕飯だと呼ばれた。
リビングで炊き込みご飯を食べながら、いろいろな小言を聞き流していた。
無言で食事を終え、またすぐに部屋に引き返す。
机の上のノートを開くと……まだ1ページ埋まってない。
こんなことなら手紙くらいにしておけばよかった。
なんだか惨めだ。
僕はどうやって死のう。
……ふと、カッターナイフが目に入った。
手首に押し当ててみる。
いくら強く押し当てても、なかなか切れない。
それを横に滑らす勇気が出なくて、とりあえず引っ掻くようにしてみる。
若干の痛みがあるが、これを何回か繰り返す。
音も無く、手首にちょうど10本の傷跡が浮かんだ。
でも、それは何だか子供が公園で転んで膝を擦りむいた怪我よりも浅い、まるで命に別状のない怪我に見える。
ほんの少しズキズキするレベルだ。
やはり、深く切るために強く押し当てて滑らそうとする。
ぐっと押して、そのまま息を止めたままカッターナイフをぶるぶる震わす。
「ぶはーっ!」
ダメだ、できない。
額に汗が浮かぶ。
鏡をふと見ると、顔が笑っていた。
あれ?って感じだ。
もういいや、遺書の続きっていう気持ちでもない。
死ぬのは明日でもいいかな、ていうか死ななくてもいいかな。
何だか面倒臭いな。
たしか今日はテレビで深夜アニメの最終回をやるはずだ。
あぁ、そう思うと、死ななくてよかったな、って気持ちになった。
とりあえず、遺書は捨てたい。
僕は近くのコンビニのゴミ捨て場にノートを捨てた。