幸せな朝

目が覚めると、まずコーヒーメーカーの立てるこぽこぽという音が聞こえた。
次に窓の外で鳴くスズメの声。
シーツを退けてベッドから起きる。

洗面所。
冬だけど、冷たい水で顔を洗う。
タオルで乱暴に顔を拭い、後にする。

居間。
欠伸(あくび)をしながら頭を掻いてきょろきょろする。
ふらつきながら後にする。

台所。
「おはよう」
「おはよ」
君が食パンをスライスしていた。
薄めに切った二枚の食パンをトースターに入れる。
トースターのスイッチを押すと、二枚の食パンが赤い光にさらされる。
冷蔵庫から既に出されていたバターの容器とハム。
僕は食器棚から適当な皿を二枚選び、台所に持っていく。
トースターからこんがり焼けたトーストが飛び出してくる。
「あちち」
「ふふ」
君が皿にトーストをのせる。
僕がバターを塗る。
君がハムをのせる。
僕が皿を居間に運ぶ。
君がマグカップにコーヒーを注ぐ。
僕がマグカップを居間に運ぶ。
「ミルク入れるからまだ持ってかないで」
「ああそうか」
君のだけ持って、台所に引き返す。

トーストをブラックコーヒーで流し込み、食事を終える。
皿とマグカップを流し台まで持っていく。
水を軽く流して濡らす。
「たまには洗ってよ」
君が居間から言う。
「……ん」
スポンジを濡らして、洗剤を垂らす。
何度か握って泡立たせる。
表面を撫でるように洗う。
二つを泡だらけにすると、君が皿を持ってやってきた。
流し台に皿とマグカップを置く君。
二つを水に濡らしていると、君が後ろから首に両腕を絡ませてきた。
「ありがと」
「いいよ」
君の持ってきた二つも優しく洗う。
泡を水で落とし、壁に掛かっているタオルで乾(から)拭きする。
その間ずっと君は後ろから僕を抱いている。
「お皿、持って行って」
「もうちょっとこのまま」
「寒いもんね」
「うん」
彼と二人で暮らし始めてからもうすぐ一年経つ。
周りからは、あまり、いい目で見られない。