#小説

でたらめミッション

ふと気付くと、何かの中に閉じ込められてしまっていたあなた。光が差し込まず、出口は見当たらない。床はぶよぶよしていて歩きづらく、這うようにして移動したものの、さほど広くはない空間である。壁も床と同じ材質で、ぶよぶよしているが手で叩いたり足で…

Oh No...What a wonderful world…!!!

知っていますか、鳩は人間のゲロを食う。吐瀉物、ゲェ、路上の花、いろいろ言い方はあるけど、まぁゲロです。鳩はそれを食います。はい、食ってるとこを見たことがあります、間違いありません。 高校生のとき、学校の最寄駅がビジネスマンと大学生の利用者の…

分厚い秘密

裏庭にある土蔵には僕と姉の秘密がある。秘密の箱、秘密の写真がある。 土蔵はもともと曾祖父の代に作られたもので、当時貿易商人で裕福だった先祖がここに舶来品の調度品、洋服、保存食などを蓄えていたらしい。中には白色蛍光灯が取り付けられていて、土蔵…

地球のお友達(下)

マチコちゃんの住んでいるのは、二階建てのアパートで、本当に歩いてすぐの場所だった。入り口がカンパチに面しているので、部屋の中でも車の通る音がひっきりなしに聞こえる。父親は留守のようで、ドアを開けると真っ暗な部屋の中が不気味だった。 リビング…

地球のお友達(上)

「あの子、男子と付き合ってるんだって」 ある朝、私が教室の自分の席へ着くと、隣の席でクラスメイトが集まって話していた。ある女の子が男子と付き合っているという内容なのだ。私は会話へ加わらず、そっと聞き耳を立てる。 「でさ、私聞いちゃったんだけ…

ラブソング・フォー・ユー(予告編)

私は、恋人ともっと通いあわないといけないと思った。気持ちが、雰囲気が、その他諸々、私と彼にまつわるエトセトラがそれぞれ合致して、気持ちのいい関係にならないといけないと思った。何も言わなくてもお互いの全てがわかり、価値観の全てが生まれる前か…

一生のともだち

高校の卒業式。コサージュを制服の胸につけ、卒業証書を片手に教室で談笑する二人の少女。 ユカリ「高校卒業しても、私とミキとは友達だよ!」 ミキ「もちろん!」 ユカリ「私たち、一生友達だね!」 ミキ「一生……?」 ユカリの一言に反応するミキ。冷や汗を…

薬局

1 男がコンドームを買っていった。 一時間しないうちに男は未開封のそれを返品しに来た。 「いけると思ったんですがねぇ」と言う男の左頬が赤く腫れていた。 2 少年がコンドームを買いに来た。 十分後、少年が開封済みのそれを返品しに来た。 「サイズが合…

フレない彼女

私が一番悲しくて嫌いな言葉だと思っているのは「さようなら」です。あと「ごめんなさい」にも何か嫌な気持ちを感じてしまう。私は今まで人から誘われたりしたら断ることが難しく、そして一緒にお出かけなんかすればこちらから別れを切り出せずにずるずると…

ブレない恋人

つまらないなぁ、これが口癖の彼女でした。と言って、別に不満があるわけではなくて、本当にただの口癖のようなもので、例えばお腹が減ってないにも関わらず、お腹減ったって連呼している女の子みたいな感じです。僕の恋人は決して退屈で暇で面白くないわけ…

緑黒飛蝗「コレハフィクションデス」評

新波小説団団誌三号の45ページより始まる、緑黒飛蝗(みどりぐろばった)氏「コレハフィクションデス」について書こうと思う。見当違いのことが書いてあったらすまないと思う。 まずはじめに「コレハフィクションデス」は、「新波小説団」という表現活動集団…

些事

現在、僕の住んでいるマンションのエレベーターは、利用者の止まった階で止まったままになるエレベーターです。 僕は五階に住んでいるので、五階までエレベーターを使えば、次に人が使うまで五階にエレベーターはとどまり続けるのです。 ちなみに以前住んで…

山に登ろう! (下)

ワンゲルはまずお弁当を拵えるところから始まる。梅干しを入れたおにぎりをアルミホイルで包んで持っていくだけのときもあるし、お弁当箱にウィンナーや卵焼きや小松菜のお浸しを入れたりもする。水筒に麦茶を入れて、他には絆創膏とハンカチなどを持って、…

山に登ろう! (上)

「小峰さんは元気だね」とよく言われる。まぁなんというか、体力的なことでもあるだろうし、メンタル的な意味でも私は元気だ。私は趣味で山に登るのだけれど、その登山が私の元気の秘訣なのだ。 趣味と言っても、登山道具一式を持っているわけではない。野外…

山登り

都心から電車で数十分のベッドタウンに男がいた。彼は鉄道会社に勤務している。鉄道会社と言っても、車掌や電車の整備士などではなく、駅の清掃員だ。彼の仕事は駅のトイレの清掃、構内のゴミ箱の整理、地面にはりついたガム剥がしなどであった。 彼は学生時…

猿の運転する世界

ジョージは泣いていた。悲しくて泣いていたのではない。新しい世界のあること、そこに今自分がいることへの感動で泣いたのだ。 動物園で産まれた子ザルはジョージと名づけられ、産まれてすぐにサーカス団に引き取られた。サーカスでは他にライオンやゾウやネ…

みどりぬま

ニッケル町、金属ヶ丘1丁目の三番地、工業地帯の中にぽっかりと自然がある。僕の住んでいるのは鉄くずの町の中にある唯一の公園のその隣だ。工業高校で旋盤を操り油まみれの青春を過ごした父親が、自宅近くの工場に勤務してこつこつ貯めた金で買ったトタン屋…

生首オーケストラ

ドレミファソラシどういうことだ。バイトを終えてアパートに帰ってきたら、部屋の床に大量の生首が植わっていた。しかも老若男女、さまざまなのが。 うわ、と叫んで一通り放心して、それから一つ一つを見ていった。五歳くらいの男の子の首から、戦争経験者で…

明るい娼婦計画(没バージョン)

洋子さんには謎が多い。僕が洋子さんについて知っていることと言えば、スリーサイズくらいだろうか。B.79 W.61 H.68 で、身長は目算で158センチの洋子さんは、お世辞にもナイスバディではない。もっと、素朴なイメージだ。それでも洋子さんには有り余る人間…

船長! 宝箱が開きません!

海底からサルベージュして宝箱をゲットしたはいいが、蓋が硬くて宝箱が開かない。バールやらなにやら、工具に頼ればいいのだが、船長が頑としてそれを認めず、人力で宝箱を開けようと試みるも断念。背筋を鍛えて再チャレンジするために専用のトレーニング器…

小説『ちなみとちひろ』第九話(最終話)

クリスマスが近いある日のこと、私はちなみと同じ毛布を被って、裸だった。部屋には暖房を入れているが、それでも裸では寒い。ちなみはそんな私を後ろから包み込むように抱きしめてくれる。ちなみに剥かれた服は、部屋の隅にきっちりたたまれた状態で積まれ…

小説『ちなみとちひろ』第八話

ファミレスから帰ると、居間でテレビを見ていた父親に叱られた。テレビではニュースが流れていた。殺人事件の詳細を伝える沈痛な面持ちのキャスターは、説教の場の空気に即していて心地が良かった。しかし、芸能ニュースの段になり、とある男性お笑い芸人が…

小説『ちなみとちひろ』第七話

「てめー、ふざけんなよー!」 私に足を引っ掛けられて転んだクラスメイトが胸倉を掴んできた。私はシャツに皺が寄るのが嫌だったから、胸倉を掴まれたまま席を立って、その手を乱暴にねじり上げ、相手の重心を崩した。彼女はよろめいて床に尻もちをついた。…

小説『ちなみとちひろ』第六話

「いったーい」 床に膝から着地し、グラスの中のアイスティーを前方にぶちまけたクラスメイトは、いったんグラスを床に置き、うずくまりながら膝をさすっていた。私には背中を向けるような体勢だった。あー、とかいー、とか言いながら。 私とクラスメイトの…

小説『ちなみとちひろ』第五話

三分くらいしてから、ドリンクバーの前で散々迷っていたクラスメイトがごめんごめんと言いながら小走りに近づいてくる。彼女が自分の席に着こうと私の前を過ぎる時、私は足首のあたりを彼女の足に引っ掛けた。 ※ ※ ※ ちなみは猛然と私に抱きついてきた。その…

小説『ちなみとちひろ』第四話

クラスメイトが席を立ち、ドリンクバーへと向かった。その背中を見ながら、私はグラスの中の氷が「からん」と音を立てるのを聞いた。一瞬で他の客のお喋りや店内のざわめきが消えて、私に静寂が訪れた。父親に定められた門限があったのも手伝い、早く帰りた…

小説『ちなみとちひろ』第三話

私は何を言って彼女に「恋は綺麗事じゃないの」と言われたんだったか、よく覚えていない。しかし、彼女の必死な様子に私が冷静な、無粋な正論を言ったのだろう。彼女の恋が実れば他人が不幸になるなんて、たしかそんなことを言ったと思うのだ。 ※ ※ ※ ちなみ…

小説『ちなみとちひろ』第二話

ファミレスでクラスメイトは様々な話題で盛り上がり、夕方の六時頃、季節は冬だったからたしか日が完全に沈んだくらいの時間に恋愛相談というものをし始めた。まじめな性格の私は彼女の話の中に登場してくる人物関係を頭の中で整理させながら、集中して話を…

小説『ちなみとちひろ』第一話

友情と愛情の違いを考えた時、決定的に何が違うか、と聞かれたことがある。クラスメイトの女子と二人でファミレスに行ったときだ。そのとき、私は彼女の恋愛相談に乗っていたはずだ。私は性別かな、と答えた。でもそうしたら同性愛の人たちはどうなるのと聞…

妊娠202ヶ月の愛情 2

やがて俺はいろんな人から、恐れられるようになる。教師、旧友、クラスメイト、そして父親だ。 教師やクラスメイトなどから、俺へのアクセスがなくなった。絶えず恐ろしく誇張された噂を聞いて、俺に対して完全に「さわらぬ神に祟りなし」状態に陥っているの…