ラブソング・フォー・ユー(予告編)

 私は、恋人ともっと通いあわないといけないと思った。気持ちが、雰囲気が、その他諸々、私と彼にまつわるエトセトラがそれぞれ合致して、気持ちのいい関係にならないといけないと思った。何も言わなくてもお互いの全てがわかり、価値観の全てが生まれる前から共通しているような。
 DNAも育ちの環境も違う他人同士がそうなるためには何が必要なのか。私は彼に上目遣いにおねだりする。彼の意思を飲み込んでみるが、何もわからない。彼と向き合い、彼の弱さを包み込んであげても、やはりそれは肉体のコミュニケーションだというだけだった。

 二人の脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜて境い目がないくらいドロドロにならなくてはいけないと思った。体が液状化して、二人が抱き合ったままどちらがどちらかわからなくなってもいい。二人が腐敗して、糸を引きながら一つの生き物になれたらそれが一番いいのだ。
「どうしたの? なんか難しい顔してる」
「なんでもないよ。考え事してただけ」
 彼は私がつれない態度を取るものだから、少し慌てている。何か悪いことをしなかったか、と頭の中で今日のデートをおさらいしている。右手がお留守になってるので、私は左手でそれを繋ぐ。手のひらから体温が伝わる。皮膚の感覚では感じ取れないくらいの、微量な手汗の交換が起こる。緊張しているらしい指先から、彼の感情も少し伝わる。
 しかしこんな【点】では全然足りない。【面】で愛し合いたいのだ。それも二人が反発し続ける個々の肉と肉という形ではなく、意識や液体がお互いを行き来し続ける愛情ではなくてはいけない。

 私は彼と一体にならなくてはいけない。肉体の触れあいや冗長なお喋りを超えて、そのように愛し合わなくてはいけない。そう思った。