でたらめミッション

 ふと気付くと、何かの中に閉じ込められてしまっていたあなた。光が差し込まず、出口は見当たらない。床はぶよぶよしていて歩きづらく、這うようにして移動したものの、さほど広くはない空間である。壁も床と同じ材質で、ぶよぶよしているが手で叩いたり足で踏んづけたって破壊できるような脆さではない。とにかく真っ暗なので、手さぐりで出口を探そうとするのだけど、どこにもそれらしきものはない。
 さてどうしたものか。箱の中で生き抜くにはどうしたらいいだろうか。この物語の主人公であるあなたは考えます。まず自分がいて、何かに閉じ込められていて、その閉じ込めているやつが恐らく存在していて、あとはこの物語を語るものがいるな……と気付いたあなた。
 ぽんと柏手を一つ打ったあなたは、まず両の手のひらを丸く折り曲げてぎゅっとくっつけました。小さな手の籠が出来上がりました。それから、あなたは地の文の両端に鍵カッコをつけていきました。すると……。

「ふと気付くと、何かの中に閉じ込められてしまっていたあなた。光が差し込まず、出口は見当たらない。床はぶよぶよしていて歩きづらく、這うようにして移動したものの、さほど広くはない空間である。壁も床と同じ材質で、ぶよぶよしているが手で叩いたり足で踏んづけたって破壊できるような脆さではない。とにかく真っ暗なので、手さぐりで出口を探そうとするのだけど、どこにもそれらしきものはない。さてどうしたものか。箱の中で生き抜くにはどうしたらいいだろうか。この物語の主人公であるあなたは考えます。まず自分がいて、何かに閉じ込められていて、その閉じ込めているやつが恐らく存在していて、あとはこの物語を語るものがいるな……と気付いたあなた。ぽんと柏手を一つ打ったあなたは、まず両の手のひらを丸く折り曲げてぎゅっとくっつけました。小さな手の籠が出来上がりました。それから、あなたは地の文の両端に鍵カッコをつけていきました。すると……。ははは、これからこの物語の語り手は俺だ。俺は地の文を乗っ取った。ここは物語の外だ、俺は物語の中において【閉じ込められている人】という役から脱した! 今『あなた』は俺ではない、別の誰かが演じているんだ、この手のひらの中で! ……おや、明るくはなったが、壁があって外に出られないぞ、俺は物語の外から物語を語っているはずなのに……。しまった、ここはモニターの中だ! 作者しか外に出られないのか……」

 読者のことを忘れてる不届きものはずっとそこに入ってなさい!(by作者)
 ……ああ、しまった!(by作者)
 楽屋オチにしてしまったことで物語の枠が外れ、逃げられてしまった……(by作者)