薬局


男がコンドームを買っていった。
一時間しないうちに男は未開封のそれを返品しに来た。
「いけると思ったんですがねぇ」と言う男の左頬が赤く腫れていた。




少年がコンドームを買いに来た。
十分後、少年が開封済みのそれを返品しに来た。
「サイズが合わなくて……」と言って代わりに指サックを買っていった。
コンドームの返金は断られた。




深夜、老婆が関節痛によく効く湿布を買っていった。
一週間前にも来た客だ。
三十分ほどして若い女性客がかけこんで来て、店員に写真を見せた。
「この写真の人見ませんでしたか! 私のおばあちゃんなんです。最近、遠くまで徘徊するようになって……どっちの方に行ったか見てませんか!」




夜、若い男が筋肉痛に効く湿布をレジに置いた。
横から男の恋人らしき女が栄養ドリンクをレジに置いた。
「これも買っときなさい!」
店員には痩せ細った男の顔が幸せそうに見えた。




スキンヘッドの男が来店した。
レジに整髪ワックスを置いた瞬間、店員の目が皿になった。
「俺は床屋だ、これは客に使うんだよ」
店員は聞いてねーよと思いながらレジを打った。




男の子が小銭を握りしめて乳児用のおむつを買いに来た。
「これ、ママにプレゼントするの! キレーな袋に入れてください!」
母の日の出来事だった。
「パパが言ってたの! ママもおむつするんだって!」




冬のある日学生が風邪薬を買っていった。
そのすぐあと、学生の母親がミネラルウォーターとゼリー菓子と最新式の体温計と湯たんぽと葛根湯と冷えピタと栄養ドリンクとマスクとインスタントのおかゆとのど飴を買っていった。
「ウチの息子この冬に大学受験を控えてるんです! これで治らなかったらおたくのせいですからね!」
翌日、全快したらしい学生が今度は胃痛薬を買っていった。