会話

いやまままそんなに疑わしいってな顔しないでくださいよ。
えぇえぇあなたのおっしゃることもごもっともで。
でもまままここは一つ穏便にいきましょうや。
ね?
あどうですハヤシライスでも食べませんか?
昨夜の我家の夕飯なんですよ。
家内がこしらえたんですがね、これが美味いもんでしてね私なんておかわりしちゃいましたよ。
いつもは一杯しかご飯食べられない少食の私がね。
えぇえぇ。
知ってますか?
ハヤシライスにコーヒーに入れるミルク我が家ではフレッシュと呼んでいますがねこれを一つ分入れるとおいしくなるんですよ、えぇえぇ。
まろやかになるっていうんですかね、よくはわからないんですけど私はこれを入れるのが好きでこれを入れないとハヤシライス食べた気にならないんですよ。
あらおまえ気が利くなぁ豪気だなぁほら家内が持ってきてくれましたよどうですか?
いらない?
そうですかあなたハヤシライスがそもそもお嫌いで。
あそりゃ私の一人相撲で。
そうじゃない?
腹が減ってない?
すいませんねえ先走って早とちりなんともみっともない。
まままままそう焦らないでくださいまだ帰らないでいいじゃないですか。
何かご用事があるわけじゃなしゆっくりしていってくださいよ。
はいはいはいはい腰をおろしてはいはいお煙草などどうです?
あでは火をおつけしましょう……やあついた。
暦の上ではすっかり春だというのにお外はまだまだ寒いですね。
寒がりの私にはたまりませんよ
昨年の冬は特に寒くていやはや閉口しました。
なんたってえ暖房がないってんだからたまりませんよ。
凍えちゃなんだってんで親子三人で団子になって寝てましたよ。
それでも寒いときは湯を沸かしてそれを湯のみに注いでちびちびやりながら体温めて寝てましたよ。
ああなんでこんなに寒いんだろう何が悪ぃんだよ世間様は冷たい向かい風ばかり吹かすもんだ。
私は絶望しましたよ。
……やややもうしわけありませんついつい嫌なことばかり思い出しちまいまして。
へぇへぇこりゃ気が利かねえで。
おいおまえさん灰皿持ってきておくれよ。
へぇへぇただいまお持ちしますからしばしお待ちを。
おうごくろうさんどうぞお父さん。
金が無いのはつらいでげすねえ。
私らに今度冬がきたら間違いなくおっ死んじまいますよ。
もう一度頼みますよこれが私たち息子夫婦との今生の別れになりたくないってんでしたらお父さんどうぞお金……貸してもらえませんでしょうかねえへへへ。
お追従笑いばかり漏らす卑屈で嫌な奴に育っちまってどうもすいやせんね。
へへへ。