幽霊の夜想曲

蒸し暑くて眠りにくかった
枕元で聞こえた音に目が覚めた
ピアノの音色

夜想曲を弾くのは白い肌の女の人
演奏の邪魔をしたくなくて
静かに聞いていたくて
そのままじっと眠ったふりをして聞いていた

ふと足元を見ると
足首まである長くて黒いワンピースを着ていたからよく見えなかったけど
足の先がぼんやりと消えかかっていた

無性に悲しくなって
涙が溢れてきて
それでも耳に音が注がれているから
静かに聞いていた

「何で消えちゃうの……?」

呟いちゃったら消えちゃった
すごく小さい声だったのに

闇に浮かぶ彼女の顔を最後に一瞬だけ見た
大きな可愛いらしい目がより大きく開かれて
そしてすぐにしゅんと悲しげに細められた
消えた

ピアノのあった場所を見る
そんなものは最初から無かったかのように
冷たい闇がぽつん