新波小説団 団誌5号感想


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2012年9月2日のコミティアで初のお目見えとなった、新波小説団の団誌5号の感想を書こうと思います。
表紙は、マット加工のカラー印刷。
描いてくれたのは前号と同じ雨陽(ふるや)さんでございます。
なんと、表紙デザインの原案はこの僕であったりします。
細かく指示を出してしまい、絵描きのみなさんの頭の中をかき乱したのは申し訳なかった。
でも、納得のいくパッケージができあがり僕満足!


7編の短編と、1つの旅行記が入って、お値段は500円でございます。
115ページという容量で、まぁ内容が文章の詰め合わせなので妥当かと思われる、かな。

中にはイラストなどがなく、たんたんと物語が連続している編集となっています。
僕が旅行記と短編の扉に写真を使っている他は、デザインと呼べるものはほぼなし。
外が良いだけに、ちょっと残念ではありますが、活字を量読める人にはそこまで問題ではないかも?
ただ、漫画の方が多くて、普段活字を大量に読まない人には相変わらずキツい内容かな、と。

掲載順に、軽く感想を書きます。
あくまで個人の感想でございます。
というか、推薦文のようなものになってしまいました。
評論する立場ではなく、書店店員さんがお勧めするような気持ちで書きました。
どうぞ↓


『猫のいる日々』蜜柑(みかん)
純文テイストの作品。
拾った猫を元の持ち主に返すことに主人公が反発する、というあらすじ。
幼い主人公の思考に、ちょっと赤面しながら、おいおいとツッコミを入れながら読みました。
会話のテンポがダッシュ線や空白を多用して、ある種リアルな緊張感を生んでいます。
ストーリーがぽんぽん進むものではないので、じっくり主人公と対話するように読むものかと。



『みんな腹ペコ』緑黒飛蝗(みどりぐろばった)
沈鬱なムードの漂う作品。
物語の書かれ方のパターンは36通りしかないんだって。
それを知った主人公が、あらかじめ定められているものの中で生きることの意味を考えたり。
実在の小説家や作品の名前が頻出し、それらを知っているとクスリと笑える仕掛け。
閉塞した感じがあるけれど、最後に風穴を開けてくれる作品でもあります。



『エブリデイ・千秋楽』柳井未奈人(やないみなと)
飛び出す仕掛け小説。
というのは大げさですが、小説に演劇やテレビの手法を用いたトリック文芸。
学校でドタバタ遊んだりお色気があったりの喜劇ですので、深く考えずどうぞ。



『ある日曜日の公園で』strool(すとろ)
恋人同士の日常をシュールに描写した怪作。
透き通る水彩の世界の中で、静かに静かに違和感が加速していくような感覚。
絵画を味わうように、第六感で読むべし。



『みみず晴れ』忽蘭(くらん)
空から見えない何かが降ってくる……それは透明のみみずではないのか!
丁寧でわかりやすい文章が逆に怖い、特異な状況下での人々を描いた作品。
作中に、ツイッターを小説化する試みがあり、発想が攻めの姿勢を貫いていると思いました。
とにかく、読みやすく上手な文章が安心して読ませてくれますが、トガった部分にときたまやられます。



『幽霊を追い駆けて』松尾憂雪(まつおゆうせつ)
美醜について、幽霊について、こだわりのあれについて。
さまざまなことについて、主人公の思考を掬いあげて文章化したような作品。
「意識の流れ」の手法を小説で実践している憂雪さんが描いた、ファンサービス的な作品とのこと。
おちゃめだったりポップな文が随所に挟まれていて、まさにサービス精神を感じました。
俗世間と幻想的な世界を同じように淡々と描写していて、どちらも生々しく感じられました。



『夢と理想のフェリー』近衛(このえ)
東北の駐在所に一本の電話。
いわく「フェリーが国道十三号線を北上している」というもの。
ツイッターで、男くさいメルヘンと書きましたが、まさにそんな感じ。
現実逃避の親玉の着ぐるみウサギを頭突きで破り、たった一言でフェリーを国道に沈める。
主人公の静かな怒りやポリシーが胸を熱くさせます。
雪の降る東北の国道という舞台設定、メルヘンなアイテム、語り口の硬質さが不思議にマッチした佳作。



『台湾へ行くの巻』柳井未奈
2012年の3月、ふらりと台湾へ旅行に行ったときのことをまとめた旅行記
ブログの延長のような軽い文章で、まぁ焼き肉屋のレジで渡されるガムみたいな代物。
モノクロではあるけど、写真がちりばめられていたり参考にならない図表が挟まっていたり。
チープさを笑うか、くだらないと本を閉じるかはあなた次第。



次に、新波小説団が出張するイベントは、11月18日(日)に東京流通センターで行われる第十五回文学フリマ
11:00~17:00で、入場はフリー。
文章系同人サークルの中では、年々有名になってきたイベントです。
また近づいて来たら告知、宣伝いたします。
それではアディオス。