君は毎夜、月の形を確認しているかな
全ての人間が夜空を見上げるのを忘れてしまった夜に、月は丸まった胎児の形をしているんだ
僕は死ぬ間際に見てしまったんだ、夜空にくっきり浮かんだ光る胎児と目があったんだ

ゆっくりと天体の運動は秩序をもって進行する
人が目を覚まし、あるいは朝日にまぶしがる時刻に
胎児は絵の具を水に溶かしたようにぼんやりと輪郭を滲ませ
君の目に「いつも通り」を見せる

君は毎夜、月の形の変遷を決めつけている
そっと撫でると指がぱっくり切れそうなシャープな満月
その曖昧さにむかむかしてくる太った三日月
びしょびしょに濡れてみじめったらしいおぼろ月

誰もが夜空を見上げなかった夜に、胎児はこっそり空に君臨する
きっとこっそり生まれ落ちたいんだ