なくしもの

最初は特に思い入れのなかったケータイのストラップだった。どんなデザインだったかも今になっては思い出せない。その程度の物だった。
次はお気に入りの腕時計だった。これは困った。
時間を確認するのに一々ケータイを取り出すのは面倒だったし、デザインも好きだったから、喪失感が多かったのだ。
僕のモノが失くなり始めたのはちょうど夏休み初日だった。
それから段々、一日一日と失くなっていったのだ。
僕は自分のうっかりさに軽く絶望して、そのあとプレイステーションメモリーカードを失くしてからはとても用心した。
だが僕の用心はまったく効果がなく、どんどんといろんなものをなくしていった。

ほんのささいな言い争いだった。
でもその日僕は愛していた彼女を無くした。
次の日、交通事故で彼女を亡くした。

校舎裏で、ヤケになって煙草を吸った場面を教師に見つかった。
その日僕は学生の権利を無くした。

親のくだらない慰めが一々癇に触る。
僕は荒れに荒れ、常識を無くした。

父親と大喧嘩して、家を飛び出た。
苗字を無くした。

飛び出て、公園で寝泊りしていたら、財布を失くした。

汚い、ババァのホームレスに酔わされ犯されて童貞を失くした。

ゴミ箱を漁り、自尊心を無くした。

若者の集団に狩られて、魂を亡くした。


昨日は何を失くしたっけ?
今日はあれを無くしたなぁ。
明日は何を亡くすだろう?

冬のある日、僕は絶命した。
凍死だった。

……………………………………………………今までの物や者に比べれば小さな亡くし者。