グリーングリーン

ある日ぃパパとぉふたりでぇ~♪
語りぃ合ぁったさぁ~♪
この世に生きるぅ喜びぃそして 悲しみのことを~~♪
グリーン グリーン♪
青空にぃはぁ 小鳥が歌ぁい~♪
グリーン グリーン♪
丘の上には ララ 緑がもえぇる~♪

今、薄暗い部屋の中で、うつ伏せになって俺は歌う。
最初は鼻歌だったが、段々気分が乗ってきて、そのまま歌い出した。
グリーングリーン!!
また繰り返す。
グリーングリーン!!
緑が頭を埋め尽くす。
綺麗な緑が薄暗い自室と見事な対比を為し……美しい。
とかなんとかだらだらと思考をめぐらしてみても腹は膨らまん膨らまん、膨らまカン砂漠!
イエイ!
ゴホゴホ!
ちょっとむせてしまってテンションが下がりそう。
だけど続けてグリーングリーンを歌い、俺はこの良い気分を下げない。
下げない。
下げないようにしていたが、やはり、駄目。
いつのまにかグリーングリーンの歌詞の中で、少年は父親と今生の別れをし、この世に生きる悲しみに出会ってしまう。
何だかすんごく落ち込む。
そのまま気分は……どん底
どうしたって、この夜明け前の部屋の中で一人きりの俺の心は晴れない晴れない晴れナイジェリア!
ゴホゴホ!
今度は照れ隠しにむせてみる。
しかし、咳をしても一人、ただ虚しい。
これではもう、ただ、やるせない。
夜は暗い。
そして暗いのは恐い。
しかし、夜明けは薄暗い。
薄暗いのは、冷たくて、他人行儀で、ひどく空っぽだ。
ひどくつまらない。
俺の中でこうしてうだうだと思考することは、暇つぶしとして機能する以上に、哲学、アイデンティティ、そして自己の確認をする作業だ。
………。
誰もいないけど、ひっそりこそこそ御免なさい。
俺は今嘘をつきました。
ただ淋しくて、静けさがたまらなく嫌だから、ごまかしていただけにすぎないのだ。
本当はこんなにくだらない。
なのに、何が膨らまカン砂漠だ!
何が晴れナイジェリアだ!
と自分に喝を入れる振りをして、ただ時間がすぎるのを待っている。
とてもやりきれないし、死にたいとか弱々しいことを言う気にも、なれない。
いや、でも口に出せば死にたくなるかも。
「死にたい」
口に出してみると、とても空虚な死にたいが聞こえた。
残念だが声の主は自分。
でも、死にたく、ない。
全く死にたいとは思わない。
こうやってうだうだやっているだけだが、何だか死ぬのはもったいない気がする。
死んだらこの後にやってくる楽しいことがやってこない。
とかなんとか。
まぁた、いい気になってつまらないことを言っている。
どうしようもないな、この男は。
なんて思いながら、鏡に写る不眠症の男の濁った目を見る。

あの時
パパと 約束したことを守った
こぶしをかため 胸をはり
ラララ ぼくは立っていた
グリーン グリーン
まぶたには なみだがあふれ
グリーン グリーン
丘の上には ララ 緑がぬれる

いつか
ぼくも 子供と 語り合うだろう
この世に生きる喜び
そして 悲しみのことを
グリーン グリーン
青空には かすみたなびき
グリーン グリーン
丘の上には ララ 緑がひろがる

今度はただ呟いてみる。
死にたい、なんかより、よっぽどリアルな悲しみがこみあげてくる。
泣ける。
嘘である。
俺は自分の子供に生きる喜びとか悲しみとか語るだろうか、いや語らない。
大体、今現在、父親と約束したことも守らずにこうしてうだうだとやっていて、少年の胸をはって緑を濡らすさまに本気で感心していたりするのだから。
役立たずだ。
ただただ、明け星を見つめて薄暗い空が明るくなるのを待ち、それが済めば、黄昏色の街を見つめて空が暗くなるのを待つ。
今一人、緑に焦がれて眠れぬ男がここに。
グリーングリーン!!
グリーングリーン!!