人さらい団地

いろんな恐い噂があるけどね、これもね、私が聞いた恐い噂の一つ。
今まで誰にもね、話してないからね、みんなも秘密だよ?
………。
じゃあ、いくよ。


高度経済成長期後半の頃の話なんだけどね。
都心から離れた、土地がたくさん余っている場所に都市で働くたくさんの人がいろんな県から移り住んできたの。
それでね、その人たちが住むためのアパートを新しく建てて団地を形成してったの。
商店街も造ってね、どんどん発展していったの。
大きなアパートはどれも同じ形をしててね、自分が住んでいる棟の番号を覚えていないとすぐに迷子になってしまうほどに密集してつくられていたの。
部屋はとても狭いけど、それでもたくさんの人が部屋を借りて住んでいたの。
安かったからね。
隣近所と交流をもたない人も多かったみたい。
隣にどんな人が住んでいるのかもわからないってやつね。
近くに小学校が建てられたらね、アパートの子供が通うから必然的にマンモス校になっちゃうわけ。
先生も一人一人の顔とか名前覚えらんないくらい生徒が多いの。
通学路に公園とかないからね、子供たちはアパートの前の小さな駐車場で遊んでたの。
夕方の五時になると『赤とんぼ』のメロディーがスピーカーから流れてきてね、それを聞くとみんな自分の家に帰ってったの。
アパートには管理人とかはいなくてね、アパートの棟ごとにルールとかも違ってたらしいの。
それでね、一応は平和にやっていたらしいけどね、何年かすると不思議なことが起こったの。
………子供がいなくなるの。
それも大勢。
一人一人いなくなってってね、最終的には五十人くらいいなくなってったんだって。
男の子も女の子も。
みんな知らない人に話し掛けられてもついて行かないようにって親と先生に言われてたんだけど、それでも関係ないみたいで、どんどん子供たちがいなくなってくの。
最初に親は、家出かなと思って友達がいる他の棟の人の部屋まで訪ねたりしたらしいんだけど、それでも全く見つからないから警察を呼ぶんだって。
でもね、警察に頼んでも全く見つからないで、その間にもどんどん子供がいなくなっていくの。
恐いからって引っ越すこともできないでね、サラリーマンのお父さんとパートのお母さんたちはそのまま団地に住み続けたんだって。
いつか自分の子供もいなくなっちゃうんじゃないかってびくびく怯えながらね。
子供がちゃんと部屋に帰ってくると安心感で泣いちゃう親もいたみたい。

人さらいはね、その団地に住んでいたの。
お金持ちでね、団地内のアパートの一つをまるごと全部屋借りてたの。
その一つ一つの部屋に一人ずつ監禁してたんだって。
みんな他人に無関心だったからね、こんなことが起きたんだって言われてるよ。
恐いよね。
でもね、こんな噂こそ立っているけれど、この事件が解決したってのはまだ聞かないの。


―――――――まだ監禁は続いているんだって