サンタ、苦労す。 (上)

「時は西暦20××年!
核兵器の実験が失敗し、人類の半分は滅亡してしまった!
そして、生き残った者たちも、今日を生き抜くとこに必死で街は荒れる一方。
この話は、そんな世紀末に生きる熱い男たちと、一人のサンタクロースの血で血を洗う壮絶な闘いの物語である!!」

「うるさいですよ、サンタ。現実逃避しないで仕事してください」

「サンタさんなんていない」

「サンタがいったいなに言い出すんだよ!」

サンタの頭を軽く叩くトナカイ。

時は西暦2025年。
コカ○ーラ社の目論見は失敗し、世界の子供の半分はサンタを信じなくなっていた。
そしてまだサンタを信じている子供も、いじめられてサンタを信じなくなる一方。
この話は、そんな夢のない子供たちにもう一度夢を与えようと立ち上がった、サンタのお話。

夢を失ったかわいそうな子供たちに、自分をさりげなく見てもらい、サンタの存在を今再び世に知らしめようという試みなのだ。

今年も依頼をどっさり受けて、サンタは街へ繰り出す。

早朝、東京は世田谷区の閑静な住宅街で二人はしゃべくっていた。

「大体、親からの依頼ってのがすでに夢ねぇよ」

「サンタコラてめぇ!」

「トナカイさんは偉いですねぇ。毎年はりきっちゃってさぁあ?」

「あなたが言い出したんでしょうが!!子供たちにもう一度夢持ってもらおうって」

「だって毎年毎年、辛いぜ?クリスマスの予定聞かれて言い訳すんの」

「あんたサンタだろ!?堂々と仕事って言っとけよ!」

「‘お仕事だなんて、寂しいクリスマスですね(笑)’って過去の同僚にほくそえまれる俺の気持ちがお前にわかるかぁ!」

「く、苦しい………、首を、締めないで、ください………!」

トナカイの首から手を離すサンタ。

そして依頼主からの手紙をもう一度読み、舌打ち。

「見てみろ、トナカイ」

「うぅ、どうせ知能の低い劣った生物ですよ、私は………。赤鼻なのが唯一の個性です、フフっ」

体育座りで鬱モードのトナカイ。

「あぁ!鬱陶しい!」

サンタは頭を抱え絶叫。

そしてトナカイの角をやさしく撫でてやる。

「悪かった悪かった。さぁ、『赤鼻のトナカイ』を一緒に歌おう?そして仲直りだ」

「う、ぅ……うぅうぅ……‘真っ赤な……おっは、グス…っなっの♪’」

「そうだその調子だ」

「トナカイさぁんっは♪」

「いいじゃないか、笑顔がチャーミングだぞ!その笑顔で今年も頑張ってくれ」

「いっつもみぃんっなっの………」

「どうした?………はっ!」

「わぁらぁいぃもぉおううぅううぅ…………」

「いかいかん!笑いもんにすんのはよくない!さぁ歌を変えよう!‘あわてんぼうのサンタクロース’カモン!」

イントロを口ずさむサンタ。

「………あわてんぼうのぅ、サンタ‘殺ーす’………うふ♪」

「すいません!調子のってましたぁ!!」

仕事は速いが軽率なサンタと、真面目だが情緒不安定なトナカイのオチこぼれペア。

過去の同僚たちは、彼らのことを軽蔑と笑いの混じった声で‘お父さんのいないクリスマス’とか‘苦しみます吊りー’とか‘ペア・オブ・クリスマス’とかと呼んだ(サンタたちは俗世間とあまり交流がないからセンスがずば抜けて悪い)

そして一番言われていたのが、‘愉快な二人’だ。

もうセンスがどうとかというより、頭が悪いとしかいいようのない名前だ。

特に大きな事件があったわけではない、しかし確実にサンタ稼業を降りるものが相次いだ。

トイザ○スで親子が一緒にプレゼントを選んでいたり、親にプレゼントはあれが欲しいこれが欲しいと子供が頼んでいたりを、街で見かける度に、サンタたちは心を痛め、仕事を降りた。

やっていく意味を失ってしまったのだ。

案外夢を失ったのは子供たちよりサンタたちだったのかもしれない。

「さぁ、今日はもう24日だぞ!仕事仕事」

「うぅ………話題を上手く切り替えましたね」

「えぇ、トナカイさんが‘涙で前が見えないよぅ’と抜かすので、不肖このサンタめが手紙を朗読つかまつる」

「変な謙譲語(ぼそり)」

「何もきこえなかった!さてさて、手紙にはこう書いてある」

サンタは手紙を朗読した。

ところどころ語気を荒げ、手紙の主に怒りをあらわにしながら。

手紙の内容はこうだ。

「母に無理矢理書け書けとしつこく言われたので、サンタさんとやらに手紙を書いています。
 はっきり言って、僕はもうサンタなんて信じているような年じゃあないのに、まったく親はうるさい  存在です。
 しかし、なんでも欲しいものが手に入るこのイベントは、僕にとってうれしいものなので、利用させて もらいます。
 買えるものなら、買ってみてください。サンタさん、僕は『マジカル鬼才少女ポコ』の等身大フィギュ アが欲しいです。
 もちろん限定版仕様でお願いします」

「親からはすでに、そのフィギュア分の代金はもらってる。あとは買うだけだ。どこに売ってるんだろうか?つかなんだよ鬼才少女って」

「サンタさんは『マジカル鬼才少女ポコ』を知らないのですね!」

「うわ!顔近づけんな!」

「日曜の深夜という時間帯でありながら、毎回平均視聴率10%を越える超有名アニメなのです!」

「へぇ~ふぅ~ん」

「主人公のポコちゃんがカワイイのなんのって!マジカルモーニングスタークラーッシュ☆」

「なんかバイオレンスだな」

「てい!」

「痛い!てめコラ!」

「でたな!宿敵ラリチューボウ!成敗してくれる!!」

窓ががらりと開き、おばさんが怒鳴る。

「あんたらうるさいよ!何時だと思ってんだい!!」

愉快な二人「ひぃ!す、すんません!!」

二人なは愉快に走ってその場をあとにする。




「まずは、というかとりあえず秋葉原に行きましょう」

「あぁん?いつも通りトイザ○スじゃだめなのか?」

「いえ、手紙の少年は限定版モデルを欲していました。限定版がそんな大型量販店に置いてあるわけがありません」

「詳しいな」

「常識です」

二人は山手線に乗り、秋葉原を目指す。

決して空飛ぶソリなんかでは移動はしない(いくら未来とはいえ、そんなものは発明されていない)

車内の、マナーの悪い人たちをヒソヒソとなじる遊びをしている内に、電車は秋葉原に到着した。

「んーっ、やはり秋葉原はいいです。一目をはばかることなく角を出せますから」

トナカイは被っていたトレンチコートのフードの脱ぐ。

「口に出さないとわからなかったな、フード被ってたこと」

「みなさん思い思いにコスプレしてたりするから、角も恥ずかしくないのですよぅ」

「流された」

愉快な二人は目的地の店を目指す。

トナカイが軽い足取りで入っていく裏通りは、あきらかにサンタのような一般人にはうけつけないオーラがにじみでていた。

「さ、ここですよ。ここにならあるはずです」

「フィギュア専門店‘海王堂’ってここか?なんか名前から危険な香りがするんだが、いろんな意味で」

「問題ありません。ここの主人は相当の目利きのコレクターなので、大抵のモノは揃っています」

「さいですか」

のれんを掻き分け、店内に入る。

「………らっしゃい」

暗い店内は、大量のガラスのショーケースが所狭しと並んでいる。

まるで駄菓子屋を思わせる装いだ。

カウンターには主人らしき老人が座っていた。

「おじさん。アレある?」

「………アレかい。ふっ、嬢ちゃんも好きだね」

奥に引っ込む老人。

「おい、アレなんて抽象的な会話で、本当に通じたのか!?」

「若造………、余計なこと言ってんじゃねぇよ………」

「ひぃ!」

「これだろ」

「あ、やっぱりおじさんはすごいや。惚れ惚れするコレクター魂だね」

「いつか嬢ちゃんが買いに来ると思って置いてたんだよ。役に立てて光栄だね。キシシシシ!」

「(今の笑い声か!?)ありがとな、おっさん。これ代金だ」

「…………ふん。金さえ払えば客は客だ。嬢ちゃんの顔に免じて売ってやるよ。気に入らん小僧だがな」

「すごい勢いで嫌われている!」

「じゃあね、おじさん。また来るよ!」

「その時にまでにはアレを手に入れておくよ。わしはアレを手に入れて、嬢ちゃんに売るまでは死なんよ!」

グラッツェアリーベデルチ!!」

「何故にイタリア語!」

店から出る二人。

サンタの腕には、全長148㎝の等身大フィギュア

「ちょい役のクセに濃いキャラしやがって(ぶつぶつ)」

「しっかり持っていてくださいよ。かなり貴重なんですからね!」

「わぁったよ!」

帰りの電車では、二人(主にサンタ)が周りにヒソヒソ言われていた。


                                (下)につづく









今年の2月に書いたのが消えたのでまたUPしました。