ゲームとマンガと女の子

中学生に入って最初に友達になった奴は、やはり俺と同様にコミュニケーション能力にどこか欠陥のある奴だった。
そして、二人が仲良くなってから一週間もたたないうちに、気づいたらもう一人とも仲良くなっていた。
最初に仲良くなったのをTと呼ぶ。次の奴は、じゃあEで。

俺とTとEが話すことはくだらなくて、ゲームとマンガとオンナの話ばっかりだった。
今まで仲良くなった奴ともこんなことしか話してなかった。
TもEもそうだったらしい。

俺たちは半ばほかのクラスメイトのことを馬鹿にしたような言葉をよく吐いたが、それでも中身は大体似たようなものだった。
中学生なんてみんなそんなもんだと気づいたのは案外社会人になってからだった。
自分でも遅かったと思う。 そのときに、初めて自分は大人になってしまったんだなと思った。

TもEも自分からはオンナの話をしなかった。
それでも、誰からともなく会話にオンナの匂いを撒くと、みんな酸欠で脳がくらっとくるまでオンナについてしゃべくった。
オンナが好きなのは思春期だから仕様がない、クラスの低俗なやつらと同じようなことで盛り上がってもそれは仕様がない、とみんな一様に言い聞かせていた。

ゲームもマンガもオンナも、今思うと会話の中身は本当に幼稚で、恥ずかしいものだった。
エロ本さえ持ってないような顔で、実は女に乗っかられていじめられたいなんてことをつぶやいたTのことを少しからかった時は、Tはもちろん俺もEも顔が真っ赤だったろう。
そんなことで盛り上がっているという羞恥心があっても、思春期だからと言い聞かせて、しゃべっていたと思う。

週末は、よくお互いの家にゲームをやりに行った。
順番待ちの奴はマンガを読んで静かにしていたり、またオンナの話をしたくて匂いを撒いたりしていた。
そうして緩やかに進む時の中で、特に面白いこともなく俺たちの三年間は過ぎ去った。
みんな高校に進学した。

高校に進学して新しい友達ができると、不思議とあれだけつるんでいた二人とも会わなくなった。
二人もお互い会わないらしいし、本当に三人ともがばらばらであったようだ。

高校になってもやはり似たような友達ができた。
ゲームとマンガとオンナの話しかできないようなくだらない奴らだったが、一人でいることに耐えられない弱虫たちはこうしていることで安心感を得るのだ。
俺は自分に嫌気がさしたが、それでも表面では馬鹿なことを言って場を盛り上げたりした。

こうやって自分で何も変えられず、誰かに世界を開いてもらいたがっている奴は本当に多いと思う。
同じような人種で固まり、新しい価値観や世界に触れないことで、日々募る苛立ちの恐ろしいこと、それをみんな知っているからだ。
それでも自分で変えられないから他人に頼る。
そしてその役立たずのちっぽけな自分に気づいて嫌気がさしてしまう。
それでも生きていかなくてはいけないし、その狭い世界の中で毎日楽しみを探して生きていかなくてはならない。


俺が大学生になって初めての夏、中学のクラス単位での同窓会があった。
町の小さなファミレスで催されたそれに参加したのは三年の時同じクラスだった二十人ほど。
主催者はクラスの中でいつもリーダーのように振舞っていた派手な女子数名だった。
変わってないな、そういう活発で人を導きたがるとこ。何かをはじめるとこ。
参加者の中に、TとEもいた。
俺たちは妙に照れくさく、なんだか他人行儀に「よう」「久しぶり」などと挨拶をした。
変わってないな。
俺たちは隅っこの席で安っぽいカルボナーラをつつきながら、ゲームとマンガとオンナの話をした。
Tはまだ年上の女性に乗っかられていじめられることを夢見ているし、そのことを俺がからかうとEは中学の時のようにはにかみながら便乗してきた。
変わってないな。


午後十時を過ぎてもまだ車の通りが激しく騒がしい国道沿いを、俺は自転車を激しくこぎながら帰った。
マンションの駐輪場に自転車をとめ、鍵をかけている時にふとすごく悲しい気持ちになった。
エレベーターに乗って3階を目指す途中、静かな密室の中でちょっと泣いてしまった。