知人の愛

恐怖の郵政宿舎から一日経った昨日、本当は隣接していた独身寮とかいう建物群を散歩しようと思っていたのですが、帰宅が遅れて断念。
授業が多かった。

水曜日に散髪した髪型が気に入らず、絶えず襟足をじょりじょりやって電車に乗って帰宅。
家で羊羹と熱いお茶で老いぼれてからだらだら。
友達に貸していた戸川純さんのCDが帰ってきたので、イヤフォンでじっくり聞いた。
アーバンギャルドの修正主義者も。


 幽霊の弟が僕の買ってきた駕籠真太郎の漫画を読んでいた。イヤフォンで音楽を聴いていたから、後ろにいるのが全くわからなかった。
 少し大きくなったな、生きてたらそろそろ中学生くらいか? なんて思ってたら観察してたら目が合った。僕の方から話しかけることはあまりないから、いつも通りに黙っていた。あっちも漫画から顔を上げてこっちを見ている。一体いつのまに出てきたんだろうか、梅雨の時期のカタツムリとかなんかそんなのと似ている、存在が。特に不快じゃないから放っておいている感じ。
 弟は可愛い顔をしている。僕の血をひいているから似てはいるのだが、それでも他人の子のように思えるほど端整な顔つきをしていて、こうやって目が合うと少しまごつく。でもこっちから目をそらすと負けた気になるから、そのまま目を合わせたままにしていた。まるで路上の猫とにらみ合いをするような感じ。あっちがそらすまではこっちも譲らない。
 しばらくそうやって目を合わせていた。たぶん十秒くらいだったろう。部屋に妙な沈黙が満ちる。段々と息苦しくなってきて、呼吸が深くなる。幽霊にも酸素は必要なのだろうか? でももし必要なら今頃地球は酸素が不足してみんな窒息死しているだろうな。弟が口を開いた。「何?」とだけ言った。「別に」と返すと、視線をふらふらとさせてからまた漫画に向かった。僕は弟の扱い方がわからない。ただ視線を合わせていただけで、こんなにも苦しくなる。他人に辛辣な言葉を投げかけられて、それを必死に忘れようとしている時にも似た様などきどきを感じる。僕は弟にどんな感情を抱いているのだろうか? どきどきしながら冷静を装ってそれだけを考えて、僕は机に突っ伏して居眠りするふりをした。
 可愛い僕の弟。僕以外、誰もその姿を見ることができないし、存在を知らない。僕はそのことがたまらなく嬉しい。だけど消えてしまって、そのまま一生現れなくなってもきっと僕は涙を流したりはしないだろうなという予感がある。そうやって考えていると、僕が弟に対して抱いている感情の正体が少し見えてくる。愛情ではなく、ぬいぐるみか何かを大事にする気持ち。きっと今だけどきどきと眺めていて、いなくなったら次のどきどきする物を探すのだろう。
 僕はいつのまにか本当に寝てしまっていて、夢の中でそう考えていた。そして目が覚めた時、弟はもういなかった。ああ、漫画を置く時は元の場所に戻しておいてくれって言ったのに、床に無造作にほったらかしだ。まったく。漫画を元の場所に戻しながら、何だか僕の胸はふわふわと温かかった。




夕食を食べて、スーパーに行って夜食買って来た。
クッションを抱いてうとうとしながら何か勉強をした。
そして二時くらいに寝た。
遅刻して高校へ。
電車の中でつり革を掴みながら、筋肉少女帯のライブの筋肉痛が解消したのを確認。
今、情報の時間です。
パソコンが使えるから、調子に乗ってタカツカタカツカとわけのわからないことを打鍵。
あ、そろそろチャイムが鳴ります。
それでは。