大放出

無題
ある日見た夢で、僕の頭は比喩でなく空っぽだった。
彼女に摘出されていたのだ。

僕の部屋のベッドに腰掛け、彼女はピンク色のそれを舐めながら幸せそうだった。

冗談じゃない! 
そう思った瞬間彼女の表情が急変した。

「完全にあたしのものにならないならあんたなんかいらない」

険しい表情のまま齧りついた。
僕は意識を失い、夢から逃げ出すことが出来た。

「起きた? ……ねえもう一回しよ?」

隣で寝そべる彼女と目を合わすことができないでいた。







無題2
日常生活に支障はないのだが
外してくれよ ごつい この首輪
 動物じゃないんだ

君のことはもうずっと愛しているのだが
壁になってるよ へだつ この首輪
 動物じゃないんだ


世界を変える一言あるだろう
口にしたらいいだけさ
プライドなんか首輪みたいだろ
冷たい夜が続くね

僕のこと愛しているのは知っているのだが
外してくれよ 黒い この首輪
 動物じゃねえんだ






思春期の絵描きへ
君の描いた絵が見たい
ずるしちゃ、駄目だよ?

絵は何かの比喩や象徴じゃないよ
純粋に絵、だよ

君の中身が溶けて滲んだ絵
完璧なんて望んでないよ
拙くてもかまわない
さぁ……

まただ…………

なんでカンバスから逃げるの?
他人の絵なんて見たくない!






街の他人へ
君が好きなんじゃなくて
 君の制服の赤いリボンが好き

お前が好きなんじゃなくて
 お前の足の緑のスニーカーが好き

あなたが好きなんじゃなくて
 あなたの首のなんともいえないスカーフが好き

君は、お前は、あなたは、
僕の何が好き?




AV女優のRさんへ
絶叫  するならもっと
発狂  するべきだよね

感情が歯茎に滲めば
きっと君はスター

甘い汁を吸えるだろうが
不潔な汗も舐めるだろう

愛を  するならもっと
パッション  持つべきだよね






大学生の二人へ
一人
煙草吸う時はいつもThee Michelle Gun Elephantの『スモーキン・ビリー』

一人
雨が降った日はいつもKing Crimsonの『RED』

ルームシェア、二人はハードボイルド気取り
お互いの儀式に決して干渉しない


片方はカラフルなのが好みだったが
もう一方は緑色さえあれば満足だった
部屋は結局、無難なマシュマロ色

分かり合ってるつもりだったが、傷つかないよう怯えているだけだった
分かり合ってるつもりだったが、傷つかないよう怯えているだけだった

酒と女と教授の悪口、照れて合間に宗教や文学、インドネシアやスペインの思い出と風土に関する考察、飛躍して留まらず、結論の無いお喋り

トーク そして トーク   トーク また トーク

ただ夜が楽しくて 二人 いつまでも笑っていた
携帯電話のドクロの待ち受け画面も笑う






空想少女
私は街を行く
     だって
       私を待ってる人がいるはずだから

林檎も、雨も、苺だって、何を象徴しているのかが
                    わからなければ、
詩に使ったところで甘ったるくて水っぽくなるだけだって、
                    あなたが私に言った

丸くて甘くて、そして私のわがままを許してくれる
だからみんな好きなもの

私は街を行く
   ウサギもネコも追わないからね
             期待しないでよね

女の子がみんなアリスだと思わないこと
魔女に感情移入する子もいるんだからね


ああ甘いものが食べたいわ 紅茶を淹れて ふかふかしたもの抱かせて
優しく頭を撫でて キスならフレンチ止まり 嫌な顔はしないで  

林檎の模様のテーブルクロス しとしと降る雨眺めて 頬杖ついてため息ひとつ
摘みたての苺をかじって 頭にぱっと広がるお花畑のイメージ


ゼリービーンズは何色が好き? 決められないよね
だってカラフルじゃないとおいしくないもの
とても一つに決められない

やっぱり私もアリスでいいわ 少女でいたい
ねぇあなたわかる?
気難しそうな顔して実はとってもとっても獰猛なオオカミのあなた?





腐乱少女・改
白いワンピースの可憐な少女が死んだ
だが神の気まぐれで彼女には意識が残されていた

野垂れ死にだった
哀れな少女を弔ってくれる者はなく
少女は土から這い上がる菌類に犯され腐乱していく

痛みなく傷んでいく自身
蝕まれていく自尊心
しかし彼女は神を恨まなかった

涙も枯れたころ
ぐずぐずの手足が乾ききり 風に飛ばされていった

腐乱した胴体にはさすがに獣も近寄らず 
完全に風化するまでは虫と菌たち以外は触れなかった
肉はさらさらと粉になり 町から町へと旅をした



どうしようもなく打ちひしがれている悲しみの人は 腐乱少女のかけらを吸いこんでしまっているのだ ひとかけらでこれほどまでに辛いのだから きっと彼女ひとりが感じていた悲しみは 世界を凍らすほどだったろう