サンタと中居(上)

一昨年の上
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一昨年の下
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去年の上
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去年の下
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「去年(2026年)、横浜市の日本サンタ協会の本部を炎上させてしまった愉快な俺たち(サンタとトナカイ)。さぁ、俺たちに明日はあるのか? あるのか、ボニー!?」
「じゃあサンタさんはクライドですか?」
「うん、映画は見たことないけど、男女二人一組といったらこれかなと思って」
「はいはい」

サンタの森での火事の後、うやむやに解散した二人が約半年ぶりに出会ったのは世田谷!
さて、季節は――――

「それにしても、今年は酷暑ですねぇ……」
「いやはやまったく」

――――夏!
二人がぶらりと外出した時、なんと出会ってしまったのはあろう事か八月のド真ん中であった。

「なんつーかよぉ、真夏に見るトナカイの角ってのも乙なもんだな」
「その暑苦しい真っ赤なジーンズはどこで売ってるんですか……」

ミーン……ミンミン。
ミーーーンミンミン………。
蝉が鳴く。

「とりあえずよぉ、246号線沿いで立ち話もなんだから、どこか入らねぇか?」
「賛成です……」

蝉が……鳴いていた。





子供たちに夢を与える。
その目的で設立された日本サンタ協会。
同時期に入社したサンタとトナカイのペアは、毎年クリスマスに二人で仕事をしていた。
一昨年はニートのカズフサ君に等身大萌えキャラフィギュアを。
そして去年はあまりに依頼が少なかったため、これまた同期のメリー発案の関東のサンタたちでクリスマスパーティをしたのだった。
ぐだぐだパーティのラストにごたごたして、本部の洋館はこんがり炎上してしまい、サンタもトナカイもやべーよやべーよ、な状況なのであった。
それから月日が経ち、もう上半期が終わった! 今年はどうやって本部に顔出せばいいのか……と悩みながら兼業のアルバイトをしていた二人であった。
そのお休みの日の話。

桜新町の喫茶店に入り、二人はアイスコーヒーを飲む。

「いやぁ、サンタさん普段は宅配便やってたんですねぇ」
「そういうお前はピザ屋か、お互い冬も夏もあんまし代わり映えしねぇな」

トレードマークになりつつある真っ赤なジーンズに、どこで買ったのか安っぽい生地の青緑のティーシャツという、サンタの目立つ配色の服装に目がチカチカしながらトナカイが答える。

「ええ、全くですよ。お届け物してばっか」

トナカイは、手を抜いた平凡なジーンズに、オレンジ色のシーサーが胸のところに小さくプリントされたティーシャツを着ていた。

「あ~あ、クリスマス、どうなんでしょうかねぇ?」
「あれな~」
燃えていく洋館を見つめながら、サンタは子供たちの夢が崩れていくのをその洋館に重ねあわせていた。
ああ、燃えていく……。
そんな思い出しセンチメンタルなサンタにトナカイが言う。

「サンタさんがあの時助けてくれなかったら私焼きトナカイでしたよ。珍味でしたよ」
「うわ……想像するからやめろよ……またお前はそういうことばっか言って」
「サンタトマホーク(七面鳥)よりは豪華じゃありません? 周りにプチトマトで飾ってぇ――」
「だぁ! なんで久しぶりに会ったお前とスプラッタな話しなきゃいけないんだぁーーッ!」
頭の中の丸こげのトナカイを払いつつ、サンタは立ち上がる。


「今年も俺は子供にプレゼントを……」
「本当ですか? また一緒に働けますか!?」
「ああうん」
「あの時、酔ってましたが、たしかにサンタさん、もうサンタ辞めようとか言ってたから」
「……」
座りなおしうつむくサンタ。
「えええ!? 何ですかそのリアクション!」

「うわぁ、やっぱやめよっかなぁ」

「わわわ、辞めないでくださいよぉ!」

「なんでだよ~、何か夢や希望とか言ってる歳でもないんだよ俺も~」

「じゃあ私のペアはどうなるんですかぁ!」

「さぁ~?」

「ぬぐぐ……」

だらっとしたスライムみたいなサンタ。
シーズンオフはどのサンタもこうなのか?
夏の鍋奉行もあるいはこんなんなのかもしれない。

「この夏ばてサンタぁ!」

「え? ああ……うん?」

「そんな覇気のない人とは一緒に仕事したくありません! てことで、あなたのやる気を起こさせますよ!」

「ん?」

「海行きましょう!」

「ん……!」

「ビーチ! 太陽! 輝くものがその場にもう一つ。それは?」

「水着美女!」

「でしょう!?」

「よし、行こう、今すぐ行こう、はは、海、いいじゃん」

「交通費、食費、その他諸々私がおごります!」

「マジかよ! ほら! 早く! 夏が終わるぞ! カーステレオからはチューブとサザンどっち流す!?」

「ちょ、落ち着いてください!」

「なんだよぉ~、トナカイだろ~。 機動性が売りだろ~? 急ぎすぎてバターになるくらい急げ!」

「そんなもの売りにしてませんが………それはそうとして、私買い物帰りなので荷物を家に……ていうか色々準備があるので集合は明日にしましょうよぉ」
 
「く、しょうがないな」

トナカイはスーパーの袋からネギをはみ出させていた。
なんとも所帯じみたトナカイである。
サンタは家にいるとアパートの管理人が家賃をせびりに来るのが憂鬱で散歩をしていたところで、手ぶらだった。
というわけで――

「とりあえず俺は財布を持ってないからトナカイ、ここはお前がもってくれ」
「え~?」
「浜辺で食べる焼きとうもろこしや不味い塩ラーメン、その他もろもろに比べたら安いもんでしょーがー」

アイスコーヒー×2=600円なり。
ちゃりーん。

「私の水着姿拝めるんだから、そっちがお金払ってほしいくらいですけどね」
「こっちのセリフだ」
「いや……よくわかんないですそれ」

店を出る二人。
国道246号線沿いの道路、ビジュアル的にも蒸し暑い無骨な道路。
そこをどでかいトラックが通り過ぎ、二人に熱風をプレゼント。
「ぬあ~……」
「うぅ……」
もう何だか海行くのだるいなぁとか思ってるサンタ。
でもトナカイはサンタと二人で夏の海へ行けるのが少し楽しみなので、嫌そうな表情のサンタを再び説得しながら、そして明日の予定を決めながら駅まで歩いた。


「お前の幼児体型でよく金払えとか言えるなぁ~」

「うるさい! スレンダーと言ってください!」

トナカイの攻撃、角で突く。

「ぐほーっ! だからそれやめろって! 地味に痛いんだって!」

「そらそらそらそら!」

「連続で! わき腹を! ぐはっ!」

「謝ってください! でないと鳥が巣作りしたくなるような綺麗な穴を開けます!」

「ちょ、やめ……ごめんなさい!」

「油断したとこを伝説のローキック!」

「ふくらはぎが死んだーーッ!!!」

道にみっともなく膝を付くサンタ。

「ぐっ、選手生命が絶たれた……」

「……なんのですか」

自転車に乗った少年に笑われてるし、やはりカッコつかないサンタ。

「それではまた明日♪」

「おう(涙)」

去り際にトナカイがにこにこしていたのを、サンタは単純にトナカイが情緒不安定からサディストへとジョブチェンジをした程度にしか思っていなかった。


翌日。
江ノ電に乗っている二人。

「なんか空いてて快調だったなぁ」

「まったくです。 あとサンタさんはクリスマスカラーに何故そこまでこだわるのですか?」

毎度おなじみ赤いジーンズに黄緑と青緑が混じった水玉模様のアロハシャツのサンタ。

「俺が赤と緑の似合う男なのは公然の事実だろ?」

「確かにサンタさんはだいたい赤か緑のコスチュームですけど、あんたは普段着もその色しかないんですか?」

洋服ダンスの中が年中メリークリスマスなサンタ。

トナカイは淡いピンクのフレアスカートがすね辺りまでを清楚に覆い、ノースリーブの真っ白なシャツを着ている(ユニクロで買った)。
麦わら帽子で角を隠している。

「サンタ辞めたらお笑い芸人にしかなれないんじゃありません?」

「マジで!? 俺笑いのセンスある?」

「あ、海が見えてきました」

「聞けよー! あ、そうだ! 『聞けおれの声』ってどう? ワダツミのさぁ……」

「ほら! 窓を開けると風が気持ちー!」

「わー本当……(あきらめた)」

駅に着き、それから真っ先に海へ向かうルートを進む二人。
湘南海岸へ到着し、まず驚いた!
浜辺で数人のグループがバーベキューをやってるくらいで、ビーチは閑散としていた。
そして砂浜にうつぶせに倒れるサンタ。

「なぜにーーーッ!!!」

「あ、見てくださいサンタさん」

トナカイが指差す先には看板が。

「なになに? クラゲ大量発生のため遊泳禁止ぃ!? んなタコな!」

「クラゲですよ」

「そんなツッコミはどうでもいい! 俺は! 今! 水着を着てるから! 五秒で海に挑める! のに!」

「うるさいなぁ」

「くぅ……」

「私も下、水着で来てるんで少し残念ですけど、仕方ないでしょ」

「その純白の白シャツから透けてたのはブラじゃなかったのか。 なんだ残念」

「………」

無言でサンタを角で突くトナカイ。

「ほぎゃーッ!」


例によって中途半端なところで次回につづく。