サンタと中居(下)

仕方なく屋台でラーメンを食べることにした二人。
サンタが「水着のネーチャンいないなら不味いラーメンなんてもう価値ねぇよ」と言ったことで、店のおばちゃん(54)が文字通り一肌脱いでくれたが(というかそれが原因かもしれない)、サンタは沈み込んでいた。

「あー、事前にチェックとかできなかったのかよー」

「ウチにはテレビもパソコンもありませんからね」

「ちぇー。 唯一の救いはラーメンが案外うまいってことくらいか」

「兄ちゃん、私の水着は救いになってないのかい?」

「あ、もう普通に服着ていいっすよ」

「なんだいなんだい……(ぶつぶつ)」

トナカイの女性の敵め! という視線もお構いなしにラーメンをすすり続けるサンタ。

「あ~あ、サンタなんて辞めようかなの方向にまた一歩前進だわ」

「って言ってもサンタさん、辞めた後バイト続けていって、なんかやりたいこととかあるんですか?」

「ん~、お笑い芸人なるかぁ。 そしてどんどん大物になって、ス○ップの中居と紅白の司会やんの」

「夢がでかいですね」

「『サンタと中居(トナカイ)』、なんてね♪」

「……相変わらずのつまらなさですね」

「濁った目で人のことつまらないとか言うなーッ! 傷つくんだぞー!」

「やりたいこと、ないでしょ?」

「うん……」

「けっこう自給いいし、事務仕事とかで臨時に働いたりできてライフラインになるとか言ってませんでした?」

「そうなんだけどなぁー……」

サンタの目に、数年前想像していてた子供たちに夢を与えている自分像が浮かぶ。
だが、サンタはこんなクラブ活動的なサンタは違うと思っているのだ。
トナカイとは仲良くやってきて申し訳ないが……という負い目。
あと定職があればいつでも辞めるつもりなのだが。
って、サンタも色々と大変なのだ。
湘南でビキニとか拝んでなきゃやってられないのだ(おばちゃんのだったけど)。

「私、サンタさんとこれからも働いていきたいですよ?」

「そうか、そりゃ嬉しいこと言ってくれる」

そんなしんみりモードの二人におばちゃんが話しかける。

「あんたたち、サンタとトナカイ?」

「そうですよ」

と、トナカイ。
麦藁帽子を脱いで角を見せる。

「驚いた、本当にいるんだねぇ」

「一応クリスマスには大忙しです」

「なるほどね……」

明るいおばちゃんが少し影を見せる。

「どうしました?」

「いやね、私の娘が仕事辞めさせられちゃって、家に帰ってきてるのよ」

「ほうほう」

「なんか暗くなっちゃって、サンタやってた時はあんなんじゃなかったんだけどね~」

「ほうほ……え!?」

「だから、二人とも、ちょっと会ってやってくれない? 希望を与えるのも仕事なんでしょ?」

「あの……娘さんのサンタ名ってなんですか?」

「メリーって言うんだよ」

「ドギャーン!」

「うるさいです、サンタさん」

「湘南に来てまさかメリーに会うことになるとは……そしておばちゃんのビキニエプロン姿を見てしまうとは……」

「はは、後半は同感かもしれません………というわけで今度こそちゃんと服を着てください」

今までずっとツッコミたくてしょうがなかったが一般人なのでスルーだったトナカイの些細なツッコミであった。



というわけでおばちゃんに連れられてメリーの実家へ。

「おじゃましま~す」

居間に通され、そこで待っている二人。

「あんたのお知り合いが来たわよー!」

「えぇ?」

二階から声がする。
すぐにダダダダと騒がしく赤いジャージ姿のメリーが金髪を振り乱し登場。

「うわ、サンタ、それにトナカイも!? あんたたち! え!?」

「…よ、よぉ」

「あんたたち付き合ってたの!?」

「そっち!? あとそれ違うから!」

「……全力で否定しなくてもいいじゃないですか……」

床に体育座りするトナカイ。

「まぁいいわ、何しに来たの?」

「サンタさんと湘南デートしようと思ったら、海の家でメリーさんのお母さんに会ったんです」

「なんだよー、水着美女見に来たのに、見たのはおばちゃんのビキニとメリーのジャージじゃーん」

「サンタさんうるさいです」

がすっ。

「……ぐぐぅ……こめかみを角で…」

「うわ痛そ……で、結局何しに?」

「あれ? なんだろ……なんででしたっけ?」

ソファーからふらふら立ち上がるサンタ。

「痛つつ………お前が角で突くから三点リーダが多くなってかなわん……じゃなくて! ―――メリー!」

「は、はい!?」

「サンタは夢を希望を与えるんだろ? だから今日はお前に希望を与えにやってきた!」

あの日、クリスマスパーティを主催して、結果そのサンタ協会本部を燃やしてしまったメリー。
いや、まぁ直接の原因は彼女にはないのだが。

「俺は、人に希望を与えたいからサンタになったのに、なんだかしんみりと将来の不安とかして、相棒も心配させて……サンタ失格だ!」

「何言ってんの?」

「なんだかんだで俺たちペアがやっちゃったみたいなもんだからな、あの火事」

「ああごめんなさい……私すっかり酔っ払っちゃって」

「でも俺たちはこれからも頑張ってサンタやる! だからメリーもこれから頑張れ!」

「……ん~?」

言うだけ言うとソファーに座りなおすサンタ。
何が言いたいのかよくわからなかった。

「そろそろこれ終わりだから、締めにいこうとしたんだけど、なんか間違った、ごめん」

「これって……ああ」

「そういう楽屋ネタ嫌いなのに珍しいわね。 ていうか本当に何が言いたいのかわからなかったわよ」

そしてメリーは少し微笑んでから言った、

「でも、なんだか希望はわけてもらったかなー。いっつもふて腐れて軽率な行動ばっかのあんたがそんな熱血くんだなんて意外。いいわね、そういうのー」

トナカイの頭を撫でながら。

「そして、なんかあんたも嬉しそーねー、いいことあった?」

「わわわ、何でもないですよー」

「ほんとー? うりうりっ」

「本当ですってー。 あと角をじっくり触るのはやめてください」

再び立ち上がるサンタ。

「ふふふ、そうだろう? いいだろう? 今年はこういう熱血キャラで行くからな、これでモテるぜ! ってぇことで今年もよろしくな、トナカイ。 ……なんか嫌そうな顔だな、トナカイもメリーも」

そんなこんなでそろそろ湘南を後にしたい(主に作者が)。






「あ~あ、結局水着美女は見られなかったし、メリーん家でもいつも通りスベった感じだし、なんだったんだろうねー」

「まぁいいじゃありませんか。サンタさんがサンタ辞めないってわかっただけでも私にとっては収穫です」

「そう? そうおー?」

「はい♪」

「水着なんかまた来年見ればいいし。 またクラゲがいたら再来年だな」

「そうですよー、そしてトナカイが毎年見られるなんてのは奇跡ですよー♪」

「んー? めんどうなトナカイだけどなー(笑)」

「死ぬか!? 死にたいですか!?」

「痛い! 今日は何度も突付かれたが一番痛い! すげぇ!」

「うおりゃーッ!」

「待て待て! マジやめろ!」

二子玉川駅でお別れし、別方向へ歩いていく二人。
今年のクリスマスにもまた会うことが決定し、やれやれ仕事は続くのだなとサンタはため息をつくのだが、少し嬉しそうだ。

「じゃあな! 次会う時は冬だぜ!」

「そうですね、夏はやっぱ調子狂いますね。 来年も……再来年もその次も! ずっと仕事しましょうねー!」

「おうおう! ませろよ! 夢見させるんだからな、夢見て行こうぜー!」

クリスマスの裏で働く者たちのちょっとしたくだらないダラダラとした悩みであった。
クリスマス、みなさんはどう過ごすのだろう?
もし働いているのであれば、彼らのことを思い出してほくそえんでいただけたら幸いである。
サンタもトナカイも聖なる夜にいつも大忙しなのだから。
それではメリークリスマス!