サンタ、再び苦労す。 (上)

「クリスマスは今年もやってくる~♪(歌詞、ジャスラックには不許可)」
歌いながら夜の公園に悠々とやってきた男。
赤いジーンズを穿いて、赤いダッフルコートを羽織った上に白いマフラーを巻いた出で立ち。
靴はナイキの赤いスニーカー。
全身を赤で統一した危険なファッションのこの男こそが、冬の一大イベント『クリスマス』の主役、サンタである。
「サンタさん遅いです!10分遅刻です!凍え死ぬかと思いました!」
そのサンタに食って掛かる少女は、茶色い控えめな色のタートルネックセーターを着ていて、頭にはニット帽を被っている。
「いやぁ、道中にね、イブイブだってのにいちゃついてる気の早い『ムカツクカップル』がいたからね、サンタトマホークで成敗してやったのよ」
「サンタトマホーク!!?」
七面鳥でぶん殴るのさ」
トナカイはニット帽を脱いで、隠していた角でサンタを突いた。
「ぐほーッ! お前が思ってる以上にそれ痛いんだぞォ!」
「てめぇがくだらないことで時間を無駄にしてるのが悪いんだ!!」

ここまで読んでキョトンとしている人たちに説明しようッ!!
彼らは年々辞職していき、夢を失うサンタが多いなか、人々になおもサンタの勇姿を示し希望を与えんとするものたちである。
去年、彼らはニート兼引きこもり兼ギャルゲーユーザーのカズフサ君にプレゼントを与えるという仕事をした(詳しくは[ サンタ、苦労す。]を参照)。
そして、また今年もその愉快極まる二人が仕事をするために街にやってきたというアンバイだ。
今年の依頼者は一体!!?

サンタとトナカイは公園のベンチに座っていた。
「これが今回の依頼者からの手紙です」
「どれどれ………」
ショルダーバッグから紙切れをよこすトナカイ。
手紙は厚紙に書かれており、ちょうど文庫本のような大きさだった。
二つ折りにされた手紙を開くと、‘カチリ’と音がして『きよしこの夜』のメロディーがオルゴールの音色で流れ出した。

―――― おひさ~! 元気してるぅ? 今年もサンタの仕事少なくて私たち困っちゃうよね~? だから今年は逆に開き直っちゃって、サンタ同士で集まってわいわいがやがやパーティーをしたいと思いま~す♪(イエーイ!) 場所は日本サンタ協会の本部。イブからクリスマスに向けての夜にやるから奮ってご参加ください。ってなわけでアドゥー(はあと) サンタ No.198  メリーより ――――

加えて、必要なもの(いろいろな食べ物とか)が書かれており、自腹で買ってきてほしい旨が書かれていた。
サンタは全てを読み終えると、あからさまに嫌そうな顔をした。
手紙をトナカイに放って、頭を抱えてベンチに深く座りなおす。
「どうしました?」
「メリーからの手紙だった。 本部でパーティーするんだってさ……」
「へえ~楽しそうじゃないですか!」
トナカイはサンタと対照的な明るい顔をした。
「パッとイルミネーションに明かりが灯ったような、華やかな笑顔しやがって、俺は正直行きたくないなぁ…」
「‘鼻赤’な笑顔!!? トナカイに向かってそんな……暴言です! 失言です! 訂正してくれないと訴えますよ!」
「‘華やか’だコラ! は・な・や・かァ!! お前の聞き間違いだ」
「それより、何で行きたくないんですか?」
被害妄想の激しい聞き間違いが恥ずかしいからか、話題を逸らすトナカイ。
「変人ばっかのサンタ連中のパーティーだ、何か嫌な予感がする、それに何だか惨めな気分を味わうことになりそうで嫌だ」
「どっちにしろ仕事で過ごすんですから、まだパーティーの方が楽しそうじゃないですか、それに女性のサンタさんだっているでしょう?」
「う~む、サンタは酒乱が多くて、一緒にいると疲れる……」
何かを思い出すように夜空を仰ぎ、溜息を漏らすサンタ。
すると、ハトが飛んできて、サンタの顔面に何かを落とした。
「ぬが!」
「うわ!」
それは地面にかさりと音を立ててしっかりと着地した。
「サンタさん、メリーさんから手紙です!」
「フンじゃあなかったのか」
サンタが手紙を拾い、裏表をいろんな角度から睨んだ。
「……む~、どうやら今のハトはメリーの伝書鳩だ」
「名前からしてパートナーは羊みたいなイメージですけどね」
サンタが手紙を読み始めると、その顔はさっきの手紙の時より幾分か濃く曇っていった。

―――― サンタ、あんたパーティーに参加したくないんでしょ? あんたのことはどっからでも監視できるんだからね。 来ないと後で恐いからね、絶対に来なさいよ~♪ byメリー ――――

「どっかから見られてる!? 後が恐い……行くしかないのか……」
サンタは心底パーティーに行きたくなさそうだった。
トナカイは少しパーティーに期待をしている分、サンタの落ち込み様が理解できない。
「そんなに嫌なんですか?」
「こんなに嫌だ」
サンタはしばし、ああでもないこうでもない、と言い訳を考えていたが、やがて観念して(よっぽど行かないと恐いらしい)行くことを決意した。
その時には夜もだいぶ更けてきていた。