人は消えたら汽車に乗る

隣の可愛いあの子が消えた
やたら頭のいい子であった
敏くて鋭い良い子であった
すらりと美人な子であった

賢すぎて妬まれたのか
あるいは見初められてさらわれた
あの子が消える理由なら浮かび過ぎて困る
しかし消えなくてはいけない理由はゼロだった
僕はあの子が嫌いじゃなかった

熱帯夜にコンビニへ行こう
熱帯夜にコーラを買いにコンビニへ行こう
銀河鉄道の夢を見ながら 古い歌を口ずさみながら
都会の夜空も実は綺麗だから なるべく空を見ながら
急ぐ理由がないから歩いて行こう

石炭、黒ずむ指、ざわめく乗客、軋むレール、鳴る汽笛
ポー。 またポー

コンビニは明るくて、暗い田畑の目がくらむ
汽車のボディは黒過ぎて、車掌の心をヤニ臭くする

べたべたするコーラを無心に飲むのだ
そのまま汽車の乗車券を欲しがるのだ
乗りたい! 消えたい! 乗りたい! 汽車くろぐろと!

隣のあの子は僕が決めかねている間に、そうだ、汽車に乗ったに違いない
ぼうぼうとねずみ色の煙を吐く、退役軍人が老いて頑固になったような顔の汽車に!
僕はその汽笛の音を聞き、歩道橋の上で煙を浴びて汚れるだけ

帰ったらシャワーを浴びよう(妄想の煤を洗い流すため)
空調の効いた涼しい部屋でコーラの残りを飲もう
ぐりとぐらの絵本を読みなおして「これでよかったんだ、幸せじゃないか」と呟こう
そうしないと、汽車に惹かれて狂いそうだった